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藤井聡太七段の6二銀!歴史に残る妙手を初心者向けに解説

6二銀の局面

藤井聡太七段の6二銀。
これは、羽生さんの5二銀のように、伝説の一手になる。
▲中田宏樹八段ー△藤井聡太七段戦をネット中継で見ていた将棋ファンは、こう思われたはずです。
ただ、初心者の方には、何がどう凄いのか、分かりにくいですよね?
このページは、
  1. 駒の動かし方を知っている程度の【初心者の“観る将”】のために、6二銀の凄さを分かりやすく解説する
  2. 6二銀が指されるまでの流れを、評価値も使って分かりやすく解説する
この2つを目的にしています。
初心者の“観る将”の方に、少しでもお役に立てれば幸いです。

1. 6二銀の凄さを初心者向けに解説

1–1. 将棋ソフト(AI)の評価値はどう動いた?

直前の評価値
6二銀(102手目)を含め、直前10手分の評価値です。
(将棋ソフトは「elmo(エルモ)」を使用しています)
93手目から102手目まで、中田宏樹八段が1191点から2038点までリードを拡大しました。
評価値の見方は、
  1. 評価値が300点以下は互角。300点以上で有利、800点以上で優勢、1500点以上で勝勢と判断される。
↑こちらの通りです。
中田宏樹八段が優勢から勝勢となって、確実に勝利へ近づいている、そう言える流れでした。
藤井聡太七段は、局面が敗勢であるだけでなく、1分の秒読みにも追われる、極めて苦しい展開でした。
その苦しい中で、△6二銀の勝負手を放ったわけですが、6二銀から投了までの評価値を追加したのが下の図です。
6二銀から投了までの評価値
△6二銀の直後、評価値が+2038点から−9999点となり、まさかの大逆転となりました。
じわじわ追い上げて逆転したわけでなく、△6二銀の一手だけで大逆転を起こしたことが、評価値から読み取れます。
続いて、△6二銀の凄さを4つの視点で分解して、わかりやすく解説します。

1–2. 6二銀の凄さを、4つの視点で解説

① 駒の損得で考える

▲5四歩の局面
上の図は、△6二銀の直前の局面です。
中田宏樹八段が▲5四歩と、銀取りに歩を打ったところです。
▲5四歩に対して△同銀と取ると、右斜め後ろ(4六の地点)にいる桂馬に▲同桂馬とされて、銀を取られてしまいます
銀が逃げるとすれば、△4四銀か、△6二銀しかありません。
ただ、△6二銀には▲同龍とされて、タダで取られてしまうため、逃げるとすれば△4四銀の一択です。
ところが、タダで取られてしまう△6二銀が指されます…。
△6二銀の局面
(え? 銀、タダだよね?
 どう見ても、銀がタダだよね?)
リアルタイムで中継を見ていた将棋ファンは、頭の中に「?」が浮かんだはずです。
▲同龍の局面
実際、中田宏樹八段も▲同龍として、タダで銀を取りました。
ここで、【駒の損得】という視点で見てみます。
銀が2枚ずつ
対局開始の時、先手も後手も銀を2枚ずつ持っています
銀を1枚、タダで取られるということは、
銀が1枚と2枚
銀1枚 vs 銀2枚になる……のではありません。
将棋は、取った駒を持ち駒として使えるため、
銀が1枚と3枚
銀1枚 vs 銀3枚という、恐ろしい戦力差になります。
そのため、通常は、敗勢側が駒損すると負けを早めます
(勝勢側が駒得することになるので、当然ですね)
藤井聡太七段の6二銀は、敗勢側が大きく駒損したにも関わらず、それが大逆転に繋がる一手であり、通常では考えられないことが起きた、ということです。

② 玉の守りで考える

将棋には、「玉の守りは金銀3枚」という格言があります。
例えば、
銀冠
銀冠や、
矢倉囲い
矢倉囲いは、金銀3枚で玉を守っています。
穴熊囲い
穴熊囲いは金銀3枚の連結も強く、とても堅い囲いです。
簡潔に言えば、
  1. 金や銀を王様に近づけること
  2. 金、銀、玉の連結を強めること
この2つが、玉の守りの基本です。
ちなみに、大山康晴十五世名人は、戦いの最中に金や銀を玉に近づけるのが非常に上手だったと言われています。
▲5四歩の局面(△6二銀の直前の局面)を拡大して見ると、
中田宏樹八段の玉
中田宏樹八段の玉は金銀3枚で守られており、しっかり連結しています。
藤井聡太七段の玉
藤井聡太七段の玉は銀2枚で、連結もしていません
しかも、どちらの銀も取られる寸前です。
(3四の銀は4六の桂馬、5三の銀は5四の歩で取られる寸前です)
玉の守りの基本と、中田玉・藤井玉の状態を確認したところで、
▲5四歩の局面
改めて、中田宏樹八段が▲5四歩と、銀取りに歩を打った局面です。
守りの駒の連結を強めるなら、
△4四銀の局面
△4四銀と指せば、銀を逃しつつ、玉と銀が連結した形になります。
ところが、藤井聡太七段が指した手は
△6二銀の局面
△6二銀でした。
守りの駒を玉から遠ざけて、連結どころかバラバラにする、しかもその銀がタダで取られる、ちょっと信じられない一手だったわけです。
守りの基本と正反対の一手で、これだけでも驚愕なのに、直後に評価値が−9999まで振り切れるという、マンガでも出てこないようなドラマチックな展開でした。
このような手を、1分の秒読みの中で指されるところに、藤井聡太七段の勝負師としての凄みを感じます。

③ 速度で考える

▲5四歩の局面
もう一度、△6二銀の直前の局面です。
(中田宏樹八段が▲5四歩と、銀取りに歩を打ったところです)
先ほど書いたように、藤井聡太七段の守りの銀は、どちらも次に取られてしまう状態です。
このような場合、
  1. どちらかの銀を助けて、銀1枚の守りで粘る
  2. 銀を取らせる間に、相手の玉に攻めかかる
この2つのどちらかを考えます。
例えば、筆者の将棋ソフトのelmoは、
△6七香の局面
この局面で△6七香として、銀を取らせる間に攻めかかる手を候補手に挙げています。
将棋には、「終盤は駒の損得より速度」という格言があります。
どれだけ駒を取られても、相手の玉を最速で詰ませばOK、という考え方です。
終盤はスピード勝負なので、elmoの候補手は格言通りと言えます。
改めて△6二銀を見ると、
△6二銀の局面
引き続き、どちらの銀も取られる状態です。
藤井七段の自陣の銀が移動しただけなので、相手玉への攻めの速度は全く上がっていません。
見方によっては、藤井聡太七段の状況がほとんど変わっていないので、速度が大事な終盤で一手パスしたようにも見えます。
スピード勝負の終盤で、一手パスしたようにも見えるのに、それが大逆転の狙いを秘めていたわけで、藤井聡太七段の勝負術の凄まじさが伝わる一手と言えます。

④ 相手玉の詰みの難しさを考える(詰め手順を解説)

ここまで、△6二銀について3つの視点で見てきましたが、
  1. 大きく駒損する(銀損)
  2. 守りの銀を玉から遠ざける(しかもタダで取られる)
  3. 攻めの速度は上がっていない(ほぼ一手パス?)
というように、マイナスに見えることばかりです。
△6二銀のプラスの効果は何なのか?ということになりますが、中田宏樹八段の龍を一マス横にずらすこと、これだけです。
7筋に効いている龍
中田宏樹八段の龍は、攻めだけでなく、自陣の7筋の受けにも効いています
6二銀を取らせることで、
龍が7筋に効かなくなった
龍の受けが7筋に効かなくなりました
この効果によって、中田宏樹八段の玉に詰みを発生させたのです。
ただし、すぐに読み切れるような簡単な詰みではありません
少し長くなりますが、初心者の方でも分かるように、詰み手順を丁寧に解説します。
藤井聡太七段が、1分将棋の秒読みの中、以下の変化を全て読み切った上で△6二銀と指された、その読みの深さと正確さを感じて頂ければ…と思います。

△6八龍の局面
中田宏樹八段の▲6二同龍に対して、藤井聡太七段は△6八龍と、金を取りつつ王手しました。
△6八龍に対して、中田宏樹八段には
①▲6八同銀 ②▲6八同金 ③▲6八同玉
という3つの応手があるので、順に見ていきます。
▲6八同銀の局面
①▲6八同銀の局面です。
この場合、△8八金と打ちます。
△8八金の局面
△8八金は、9七のと金が効いているため、▲同玉とは取れません
そこで、△8八金には
▲8八同金の局面
▲同金と取る一手です。
ここから、△同と▲同玉△9六桂と進んだのが下の図です。
△9六桂の局面
△9六桂に対して、下に逃げる手(▲7九玉、▲8九玉、▲9九玉)は、△8八金で詰みです。
ここでは、横に逃げる手(▲7八玉、▲9八玉)と、斜め上に逃げる手(▲7七玉、▲9七玉)の4通りがあります。
まず、▲7八玉に対しては、
△8九角の局面
△8九角と打ちます。
▲同玉と▲7九玉は△8八金で詰みなので、先手は▲7七玉と上がりますが、そこで
△7六金の局面
△7六金で詰みとなります(4九の馬が効いています)。
この時、7筋に龍の守りが残っていれば、▲7六同龍と取れるため、先手玉に詰みがなかったわけです。
ここで詰みを生じさせたことが、△6二銀の絶大な効果でした。
△9六桂の局面
△9六桂の局面に戻ります。
ここで▲9八玉と、反対側に逃げた場合は、△9七歩▲同玉
△8八角の局面
△8八角と打ちます。
▲9八玉なら△9九金で詰み、▲9六玉と▲8六玉は△8五金で詰みとなります。
△9六桂の局面
再び、△9六桂の局面に戻ります。
今度は斜め上に逃げる手を考えますが、▲9七玉は、先ほどと同様に△8八角と打たれて詰みです。
そこで、
▲7七玉の局面
▲7七玉と上がりますが、これには△9九角▲8六玉△8五馬▲9七玉に
△8八角成の局面
△8八角成で詰みとなります。
これで、△6八龍に対して①▲6八同銀と、銀で取るのは詰みだと分かりました。
次に、②6八同金と、金で取る手を見ていきます。
▲6八同金の局面
上の図は、△6八龍に対して②▲6八同金と、金で取ったところです。
この場合は△8八角と打ちます。
△8八角の局面
△8八角に対して、▲8九玉または▲7八玉と逃げるのは、どちらも△7九金で詰みです。
そこで、▲8八同銀△同と▲同玉△9六桂と進みます。
△9六桂の局面(2)
①▲7八同銀を検討した時にも△9六桂の局面が出てきましたが、今回は持ち駒が金・銀・香・歩で、角と銀が入れ替わっている点が異なります。
ここで下に逃げる手(▲7九玉、▲8九玉、▲9九玉)は、△8八金で詰みです。
先ほどと同様、横に逃げる手(▲7八玉、▲9八玉)と、斜め上に逃げる手(▲7七玉、▲9七玉)の4通りがあるので、順に見ていきます。
△8九銀の局面
まず、▲7八玉に対しては△8九銀と打ちます。
▲同玉と▲7九玉は△8八金で詰みなので、先手は▲7七玉と上がりますが、そこで
△7六金の局面(2)
△7六金で詰みとなります。
①▲7八同銀と同じように、7筋に龍の守りが残っていれば▲7六同龍と取れるため、先手は詰みを逃れていました

△9七香の局面
次に、△9六桂に▲9八玉と反対側に逃げた場合は、△9七香と打ちます。
△9七香に▲8九玉と下がるのは△8八金で詰みなので、▲9七同玉と取る一手ですが、
△8八銀の局面
△8八銀と打たれます。
▲9八玉と下がるのは△9九金で詰み、▲9六玉または▲8六玉と上がるのは△8五金で詰みとなります。
△9六桂の局面(2)
再度、△9六桂の局面に戻ります。
今度は斜め上に逃げる手を考えますが、▲9七玉は、上で述べたように△8八銀と打たれて詰みです。
▲7七玉と、右斜め上に逃げる手も、
△8八銀の局面(2)
やはり△8八銀と打たれます。
以下、▲7八玉と下がるのは△7九金で詰み、▲8六玉と上がるのは△8五金で詰みとなります。
これで、①▲6八同銀 ②▲6八同金の2つは詰みだと分かりました。
続いて、中田宏樹八段が指された③▲6八同玉を見ていきます。
△6七香の局面
上の図は、▲6八同玉に対して、藤井聡太七段が△6七香と打ったところです。
実戦は▲5七玉と右上に逃げていますが、ここでは先に▲6七同金と取る手と、▲7九玉と左下に逃げる手を解説します。
まず、▲6七同金と取ると、△同馬▲同玉△5五桂と進みます。
△5五桂の局面
△5五桂には、玉の逃げ道が6通り(①▲7六玉 ②▲7八玉 ③▲6八玉 ④▲5六玉 ⑤▲5七玉 ⑥▲5八玉)あります。
まず、①▲7六玉は△8五金で詰みです。
②▲7八玉と左下に逃げる手には、
△6七角の局面
△6七角と打ちます。
▲7九玉は△7八金で詰みなので、▲6八玉と逃げますが、△5八金▲7九玉△7八金で詰みとなります。
△5五桂に対して、③▲6八玉と下がった場合は、
△6七金の局面
△6七金と打ちます。
以下、▲7九玉なら△7八金、▲5九玉なら△5八金で、どちらも頭金での詰みとなります。
△5五桂に対して、④▲5六玉と右上に逃げた場合は、
△4七角の局面
△4七角と打ちます。
この手に対して▲5七玉は△5八金で詰みなので、
▲5五玉の局面
▲5五玉と、桂馬を取りながら上がりますが、ここから△6五金▲同歩△同角成までの詰みです。
△5五桂に対して、⑤▲5七玉と横に逃げる手には、
△7九角の局面
△7九角と打ちます。
先手が6八に合駒した場合は、▲6八合駒△4七金▲56玉△4五金までの詰みとなります。
よって、△7九角には合駒せずに▲5八玉と下がりますが、
△4七金の局面
△4七金と打たれます。
▲5九玉なら△5八金で詰みなので、▲4九玉と右下に下がりますが、
△3八金の局面
△3八金と打たれ、以下は▲5九玉△6七桂不成までの詰みです。
△5五桂に対して、⑥▲5八玉と右下に逃げた場合は、
△6七角の局面(2)
△6七角と打たれます。
この手に対して、▲5七玉と▲5九玉は△5八金で詰み、▲4八玉なら△4七金▲3九玉△3八金で詰み、▲6八玉と寄っても△5八金▲7九玉△7八金で詰みとなります。

△6七香の局面
再び、△6七香の局面です。
この手に対して、▲6七同金と取るのは詰みだと分かったので、次は
▲7九玉の局面
▲7九玉と左下に逃げる手を検討します。
この場合は、△6九香成▲同玉△5八角と進みます。
△5八角の局面
△5八角には、①▲6八玉②▲7九玉、2つの逃げ道があります。
①▲6八玉だと、
△6七金の局面
△6七金と打たれます。
▲同金だと△同角成〜△7八金までの詰みです。
▲7九玉と逃げても、△7八金▲同玉△6七角成で、玉がどこに逃げても△7八金までの詰みです。
よって、△5八角には②▲7九玉と左へ逃げます。
▲7九玉の局面(2)
▲7九玉には、△6七桂と打たれます。
△6七桂の局面
△6七桂には、▲同金▲6八玉の2つの応手があります。
ただ、▲同金のほうは△7八金▲同玉から
△6七角成の局面
△6七角成とされて、玉が7九に逃げても、6九に逃げても、△7八金で詰みです。
△6七桂の局面
再度、△6七桂の局面です。
▲同金だと詰みなので、今度は▲6八玉と逃げますが、
△6九角成!の局面
ここで△6九角成!という、詰め将棋のような手があります。
▲同玉だと△5九馬で詰みなので、▲5七玉と上がりますが、
△5八馬左の局面
△5八馬左(上の局面)とされて、以下は▲5六玉△4五金までの詰みとなります。
これで、△6七香に対して▲6七同金と取っても、▲7九玉と逃げても詰みだと分かりました。
残るは、中田宏樹八段が実戦で指された▲5七玉です。
▲5七玉の局面
上の図は、△6七香に対して▲5七玉と指した局面です。
ここで藤井聡太七段は△5六歩と打ちました。
△5六歩の局面
△5六歩に対して、▲4七玉だと△3八角▲3六玉▲2五金までの詰みなので、中田宏樹八段は▲同玉と取りましたが、
投了図
藤井聡太七段に△4五金と打たれ、ここで中田宏樹八段の投了となりました。
投了図以下、▲4七玉だと△3八角▲5七玉△5六角成で詰みなので、▲5七玉と下がりますが、
△3九角の局面
これには△3九角と打たれます。
▲4七玉だと△3五桂で詰みなので、▲4八歩と合駒しますが、△4八同角成▲同銀
△5六歩の局面
△5六歩と打たれます。
以下、▲4七玉△3五桂▲3七玉△2七馬で、
△2七馬の局面
藤井聡太七段の持ち駒が一枚も余らない、ピッタリした詰みとなります。
藤井聡太七段は、1分将棋の秒読みの中、上の変化を全て読み切った上で、△6二銀を指されました。
中田宏樹八段は、△6二銀が指された時、3分の持ち時間を残していました。
その3分の全てを使って、自玉に詰みがあるかどうかを考えられ、龍が6筋に移動しても自玉に詰みはない、と判断されました。
(自玉に詰みがあると分かっていれば、▲6二同龍と指されることはありません)
結果的に、中田宏樹八段のどこかに読み抜けがあったと思われますが、プロ棋士の先生にとっても、残り時間が少ない状況だと、今回の詰み手順は難解だったと言えます。

プロ棋士の遠山雄亮六段も、「非常に難解で1分将棋でそれを見切るのは難しすぎます」とツイートされています。
藤井聡太七段はこれまで、詰将棋選手権を5連覇されていますが、△6二銀は改めて、終盤力の凄さを感じさせる一手だったと言えます。

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